『あゝ、荒野』(ああ、こうや、英: Wilderness)は、日本の詩人、劇作家である寺山修司の小説『あゝ、荒野』を原作に制作された日本の実写映画シリーズ。映画は岸善幸が監督、菅田将暉とヤン・イクチュン両名が主演を務め、2017年10月7日に「前篇」、同月21日に「後篇」がそれぞれ公開された。また、日本の映像配信サービスU-NEXTでは本編の未公開シーンを追加し、全6話のドラマに再編集された「あゝ、荒野 完全版」が配信されている。
背景
『あゝ、荒野』は1950年代ごろより活躍した寺山修司の最初にして最後の小説であった。企画を立案したプロデューサーの河村光庸は、物語の舞台を原作の1960年代から、2021年の近未来へ改変するアイデアを持っていた。理由として熱烈なファンの多い寺山の小説を原作とするゆえ、原作をなぞるだけでなく、映画として新解釈を提示する必要があると感じたからであると語っている。映画はアイデア通り、2021年の、2020年東京オリンピックを終えたばかりの日本を舞台に制作された。
映画はボクシングを核に社会や個人のテーマが複数散見する内容として制作された。ボクシングシーンにリアリティを志向した岸の方針の下、菅田、イクチュンを始めとする役者はクランクインまでの半年をトレーニング、肉体改造に励んだという。ボクシングの指導は、トレーナーの資格を取得している松浦慎一郎が役者と兼任で担当し、劇中のボクサーのプロテストのシーンは、日本ボクシングコミッションの協力で、実際に後楽園ホールで開催されたプロテストの場で撮影された。その他ボクシングの試合のシーンでは実際にレフェリーとして活動する人物が出演している。実際に出演した福地勇治はトレーニングに励んだ役者陣を見て、全員がプロテストに合格できるとコメントしている。
キャスティングについて
監督の岸善幸が依頼された時点で、すでにヤン・イクチュンの起用は決定していた。イクチュンがかつて制作・主演した映画『息もできない』の配給を『あゝ、荒野』を配給するスターサンズが手がけていた縁で話が持ち上がった。韓国にてイクチュンと食事をした岸は、その場で彼から実体験と、彼が演じることとなったバリカン健次とを重ね合わせて生まれたアイデアを複数得、それを活かして原作とはややキャラクターの異なるバリカン健次の像を描いた。
菅田将暉については主演の役者を選定する際、推す声は最序盤にあったという。しかし同時期に映画『銀魂』やテレビドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』の撮影があったため、非常に過酷なスケジュールの中で体作りと撮影が行われた。
あゝ、荒野 前篇
前篇あらすじ
2021年、日本、新宿。東京オリンピックを終えた国は社会奉仕プログラムという奨学金の減額を条件に若者を徴兵する制度が確立され、これに反対する団体によるデモ行進、テロリズムによって、平和を装いながらどこか混沌とした時代にあった。
新次は幼少時に元自衛隊の父親が自殺し、母親に捨てられ、孤児院で育った。成長し、孤児院で出会った劉輝と共に高齢者詐欺を働き台頭したものの、仲間の裕二の裏切りに遭い、劉輝は半身不随に陥り、新次は裕二を仲間を刺傷した罪で少年院へ入れられた。数年経って出所したとき、仲間は皆足を洗って新たな会社を立ち上げており、新次の居場所はどこにもなかった。
健二は自衛隊員の父親と韓国人の母親を持つハーフで、母の死を契機に日本へ渡ったが、内気な性格と吃音症に悩まされていた。理髪店で働く彼だったが稼ぎの大半は酒乱の父親に奪われてしまう。性格が災いして反抗できず、かといって父親を見捨てられず鬱屈とした日々を送っていた。
裕二がプロボクサーとなり都内の星雲ボクシングジムにいると知った新次は、ジムへ乗り込み裕二に襲いかかるが、あえなく返り討ちに遭い、ジムの店先に居合わせた健二に介抱される。ふたりは星雲ジムの傍らでビラ配りをしていた片目のうさんくさい男に目をつけられる。彼は堀口という名で、現在休業中のボクシングジム海洋拳闘クラブを運営しており、ふたりをプロボクサーに誘う。トレーニングの面倒だけでなく、ジムを住居として提供し、職も紹介できるという条件を提示されるも、ふたりは一旦保留とする。ところが、新次は新宿で売春をしていた芳子という女に有り金を盗み取られ、食いつなぐために海洋へ舞い戻る。一方の健二も父親の虐待に耐え兼ねて家を飛び出し海洋へ身を寄せる。
ふたりは片目の元で半年間のトレーニングに励む。闘争心旺盛で喧嘩慣れした新次と、愚鈍だが強烈なパンチを持った健二、徐々にふたりの個性が現れる。新次はトレーニングの傍ら、ジムのスポンサーである宮木の経営する老人ホームでの労働に励んだ。共同生活を続ける新次と健二は自然と打ち解けていった。
半年後、プロテストに合格したふたりは、片目から新宿新次、バリカン健二というリングネームを授けられる。祝宴のために訪れた中華料理屋で、新次は芳子と再会する。芳子は幼少時に東日本大震災に被災した。その際障がい者となった母親を捨てて東京に出てきたものの売春で男から金を巻き上げる生活を送っていた。当初は彼女と対立した新次だが結局和解し、ふたりは恋仲になる。
晴れてプロになったふたりの前に、片目が雇ったトレーナーの馬場が現れる。片目の現役時代の師匠と謳われる馬場は、鬼の如き厳しさでふたりを指導した。そんな中、ついにふたりの初試合が組まれる。好戦的な新次に対して健二はやはり消極的だった。「相手をひたすら憎んだ方が勝つ」と豪語する新次を尊敬するもそれを実践できず、相手を恐れるあまり試合中に目をつむる悪癖が生まれる。迎えたデビュー戦、健二は防戦一方になり、挙句には気絶したふりで敗戦してしまう。続いて新次の試合が始まる。最前線で観戦していた宮木が声をかけられた新次は、その隣に、自身を捨てた母親の京子がいるのを見つける。不穏な感情のまま試合へ臨むが、相手をわずか12秒でノックアウトし勝利する。
親子関係をやり直さんとする京子から語りかけられても、新次はまるで相手にしなかった。やがて次の試合が訪れる。相手は星雲ジムに在籍する神山で、新次はかつてジムへ乱入した際に彼を蹴り飛ばしたことがあった。強烈な意欲に燃える新次だが、サウスポーの相手に苦戦する。インターバル中、裕二が観戦していると気づいた新次は「次で仕留める」と宣言し、反則行為と、自らもサウスポースタイルに転向することで挑発し、頭に血の上った相手へ強烈なカウンターパンチを食らわし、気絶させてなお殴り続け、凶悪なスタイルで勝利を勝ち取る。その熱気さめやらぬまま、新次は客席の裕二「次はお前をぶっ殺す」と宣戦布告するのだった。
前篇キャスト
前篇メインキャスト
前篇その他キャスト
あゝ、荒野 後篇
後篇あらすじ
後篇キャスト
後篇メインキャスト
後篇その他キャスト
スタッフ
各種指導
協力・提供
『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ
主題歌
「今夜」 BRAHMAN
受賞歴
出典
関連項目
- インターミッション (映画用語)#前後編に分けて公開された映画
参考資料
- あゝ、荒野ロケ地マップ映画ナタリー




